梅田望夫 『ウェブ進化論』
- 梅田 望夫
- ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
グーグル礼賛に満ちた論調は、読んでいる方が気恥ずかしくなるほどだ。
感心するのは、まるで、これからは万人に無限の可能性が拓かれているといわんばかりの希望的な観測を展開しつつ、一方で、時代の変化に適応できない人には、苛酷な将来が待っていると脅すかの如き論調だ。
サラリーマンの心理をたくみにくすぐり、脅かし、そして、いつのまにか著者の持論に引き込んで、離れられなくしてしまう。
つまり、固定読者として獲得してしまうわけだ。
これぞ、コンサルタントである著者の真骨頂だろう。
大前研一などが代表格だが、経営コンサルタントという人たちは、口八丁手八丁で、あまり認識力のない読者を手なづけ、リピーターとすることに本当に長けていると思う。
この著者にも、大前と同種の匂いを感じてしまうのは、下種の勘ぐりだろうか。
切れ味: 可
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井上靖 『孔子』
- 井上 靖
- 井上靖全集〈第22巻〉
本書は、架空の弟子を設定し、その弟子の目を通してみた孔子像を浮き彫りにしようと試みている。
が、なんともまだるっこい。
同じような話を延々と繰り返しているだけで、ストーリーに起伏がまるでなく、いい加減うんざりしてしまった。
一応、最期まで読みきりはしたが、何のために、かくも長くなったのか、理解に苦しむ。
まあ、淡々としているのを、褒め言葉に置き換えれば、枯淡の境地で描いた著者晩年の大作とでもいうことになるのだろうが。
同じく、弟子の目を通して孔子を描いた中島敦の短編小説『弟子』の方が、分量は圧倒的に短いが、はるかに師である孔子の姿を活き活きと描いているように思う。
この両著作を比較する時、歴史ものだからといって、必ずしも長ければいいわけではないことを思い知らせてくれる。
なお、井上靖の歴史ものが全て悪いわけではない。
『風林火山』や『蒼き狼』などの好著もある。
が、本作品は駄作だと思う。
切れ味: 不可
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小島一志・塚本佳子 『大山倍達正伝』
- 小島 一志, 塚本 佳子
- 大山倍達正伝
「牛殺し」「ゴッドハンド」「ケンカ空手」と、様々な形容詞を冠された極真空手の創始者・大山倍達。
プロレスラーとの死闘や猛牛との闘い、山籠りでの修行、硬貨曲げ等々、いまや伝説として化している数々のエピソードは本当だったのか。
本書には、世間に定着した大山倍達の虚像とは異なる等身大の姿が描かれている。
二部構成になっており、第一部では、韓国人でありながら、後にその出自を隠蔽し、日本人として生きようとした大山倍達の生涯を、戦前・戦中・戦後の錯綜する社会情勢と照らし合わせながら克明に追っていく。
大山は、飽くなき上昇志向を抱き、それを異国の地である日本で為し遂げるために自らの出自や経歴を隠蔽し、捏造し、虚構の伝説を創り上げた。
それは、、『空手バカ一代」』に登場する求道者の如きイメージとは全くかけ離れたものであるが、それだけに血の通った一人の人間としての親近感を抱かせる。
この親近感は、第二部になって、より濃厚となる。
二部では、実際に生前の大山と公私両面にわたって親交のあった著者が、空手家としての大山倍達の軌跡を検証していくのであるが、随所に、大山と著者の間で交わされた会話が記されている。
その大山の発言が活き活きとして、いい味を出しているのだ。
平気で矛盾するような言葉を吐いたり、嘘と真実を巧みに絡めあわせた法螺話を吹いたりする。
一般の人が、大山と同様の行動や言動をすれば、信頼関係をなくし、社会的な立場を得ることも全うすることもできないに違いないが、大山がいえば、周囲は何故か納得するし、許してしまう。
いい意味でも悪い意味でも、そんな常識を超えたスケールをもっていたのが、大山倍達であったのだ。
そんなカリスマだからこそ、一代で極真空手を創始し、巨大な組織へと発展させることができたのだろうし、逆に、彼亡き後、極真会館が四分五裂になって、見る影もなくなってしまった顛末にも妙に納得できてしまう。
まさしく「空手バカ一代」であります。
切れ味: 可
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海音寺潮五郎 『中国英傑伝』
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古代中国の春秋戦国時代から漢帝国の創業初期までの事件や人物を扱った史伝もの。
これを読むと、古代中国には、とんでもないスケールの英雄や悪党たちがあふれかえっていたんだなあと、感嘆してしまう。
劉邦と天下を争った楚の項羽は、すぐにキレて数十万という数の人を殺戮するし、漢帝国の創業者、劉邦は、戦に負けて逃げる途中、敵に追いつかれそうになると、乗っていた馬車を軽くしてスピードを上げるために、同乗していた息子を放り出してしまうとんでもない親父だ。
その劉邦の夫人は、夫が寵愛した愛人に嫉妬して、ダンナの死後、その愛人の四肢を切り落とし、眼を抉り、鼻を殺いだあげくに、便器の中に閉じ込めて糞尿まみれにして復讐を果たすといった始末だ。
現在だったら極刑ものの大悪人たちのオンパレードだ。
古代の人間はなんて野蛮だったんだろう。
そんな古今の英雄、悪人たちの人物評論をさせたら、まず海音寺潮五郎の右に出るものはいないんじゃないかと思う。
特に項羽については、軍事の天才ではあるが、感情の振り幅が極端に激しいため、自己制御の能力に欠けていたことが、最大の欠点てあったとの指摘は説得力がある。
著者には、本書の他にも、日本史でおなじみの人物たちをとりあげた『武将列伝』『悪人列伝』などがあり、こちらのほうも、その人物論は、どれも短いながらも優れている。
最近は、やたらと冗長な歴史小説が主流になっているけれど、そうした中にあって、海音寺のようなコンパクトな切れ味の作品は貴重だろう。
切れ味: 良
甲野 善紀, 内田 樹 {『身体を通して時代を読む』
- 甲野 善紀, 内田 樹
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文化人的志向の強い古武術家・甲野善紀と、フランス現代思想や身体論を専門とする文化人にして、合気道六段の内田樹の二人による対談集である。
内田によれば、この本は、「さまざまなトピックを武術的な視点から」論じたものであるそうな。
というのも、二人が対談をするに際して、その前提条件として、武術家は、定義上どのような問題についても適切に対処できなければならない、としているためであるという。
何故といえば、内田の言葉を引用すれば、次のようになる。
つまり、「どうすれば自分の心身のパフォーマンスを最高レベルに維持できるか」という問いにつねに最優先的に取り組むことを課題とする以上、武術家は彼を含む社会全体のあり方についても配慮を怠ることができない――からだ。
というわけで、本書では、武術そのものについては、あまり論じられてはおらず、学校教育、スポーツトレーニング、科学的思考について、武術家敵視点から観た場合の問題点に、多くの紙幅が割かれている。
甲野の科学やスポーツへの批判意見は、かなり我田引水に感じられるので、割り引いて読む必要はあるが、多面的な物の見方があることを認識させてくれるという意味において、なかなか面白い対談集ではある。
切れ味: 可
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映画 『戦国自衛隊』
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角川映画全盛の頃に作られた懐かしい作品。
タイトル通り、自衛隊が戦国時代にタイムスリップして、川中島で、武田信玄率いる武田軍を相手に、近代兵器を用いて大暴れするというメチャクチャなストーリーです。
しかし、アタシは、こんなバカ映画が大好きです。
小難しいことは考えずに、この映画を観てバカになりましょう。
切れ味: 可
映画 『ドラゴン怒りの鉄拳』
- ジェネオン エンタテインメント
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尊敬する中国拳法の師匠の突然死に不審を抱いた愛弟子が、その死因が毒殺であることを知り、謀殺犯である日本人の武道家と、その取り巻きたちを徹底的に叩きのめしてしまうというストーリー。
戦前、実際にあった話に大幅な脚色を加えた作品だが、上海の租界地で横暴を極める日本人を悪の権化とし、それに鉄槌を下すブルース・リー演じる中国人を正義の象徴とする典型的な勧善懲悪ドラマである。
でも、この単純な図式が心地よいのだ。
そして、ブルース・リーの発する意味不明の怪鳥音も痛快だ。
気分爽快になるカンフル剤といったところか。
切れ味: 可
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映画 『亡国のイージス』
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レンタルを借りてきて観る。
すでに原作を読んでいる者としては、粗筋がわかっているし、原作の膨大な長さを、適当にはしょりながら映像化されているので、すっきりした分、だれることもなく観ることができた。
しかし、原作を読まず、いきなり映画から入った人には、話の筋がよく分からず、厳しいものがあるのではないかと思う。
それと、原作では、悪役キャラとして、いい味を醸し出していたホ・ヨンファとその妹のキャラクターとしての存在感が弱かったのは残念だった。
それにしても、真田広之は歳をとったねぇ~。
切れ味: 可
佐々木 俊尚 『グーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 』
グーグルはどうやって収益をあげているのか、また、そのビジネスモデルが社会や経済に及ぼすインパクトの大きさなどについて解説した入門書。新書なので、すぐに読めます。
いちおうジャーナリストらしく、グーグルの影響力が拡大していく上で起こり得る(実際に起こっている)危険性についても言及している点は評価できる。
たしかに、地球上に存在する価値ある情報を貪欲に取り込もうと試みるグーグルの存在が、現在よりも格段に強まっていけば、グーグル一社が独占的に、情報という社会インフラの根幹を支配する司祭とでもいうべきポジションに立つこともありえる。
そういう未来図を考えれば、グーグル礼賛とばかりはいかないだろう。
ITには強くないけど、ネット検索で利用するグーグルという会社には何となく興味があるという方にお勧め。
切れ味: 可
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金田秀治 『超トヨタ式チェンジリーダー』
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陳腐なタイトルであるが、中身は、なかなか読み応えがある。
トヨタ方式は、現場部門における改善活動の徹底化によって、自動車業界のみならず、他の産業にも大きな影響を与え続けているが、本書で、著者が提案しているのは、それを内包しつつ、さらに加えて、「部門戦略」の発想であり、その「仕組み」の導入だ。
欧米型のトップダウンによる経営戦略方式でもなく、トヨタを代表とする日本企業に見られる、現場からのボトムアップ型でもない、第三の戦略ゾーンが、開発・生産・販売などの各部門による「部門戦略」の構築だという。そして、それを担う中心的な存在が、チェンジリーダーともいうべき中間管理職層になる。
で、このような貧相なタイトルになってしまったのだろう。
著者は、経営コンサルタントであるが、元々はトヨタグループの生産管理部門を渡り歩いた人であるだけに、その豊富な体験に基づいた語りには、なかなかの説得力がある。
また、単なる現場力の強化に止まることなく、それを更に部門の強化へと結び付け、その結果として、企業体質が断然強くなるという論調も面白い。
ただ、これは言うは易く、行うは堅しで、日々の業務を運営するシステムができ上がってしまっている企業に対して、それを変革させていくのは、実際問題として、かなりの難易度をともなうだろうし、成功例も少ないだのではないだろうか。
組織の構成員にしてみれば、変革運動は、総論では賛成でも、いざ、わが身に降りかかってくるとなれば、保守的にならざるをえないのだから。
切れ味: 可
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