司馬遼太郎 『義経』
- 著者: 司馬 遼太郎
- タイトル: 義経〈上〉
司馬版義経は、なんとも冴えない。
顔は醜いし、人間関係の機微にも欠けている。
取柄は、ただ一つだけ、軍事の天才ということだ。
これは、人間に要求される諸能力の中でも、最も難しいもので、世界の歴史上にも、この稀有の才能を持てた者は、ナポレオンやアレクサンダー大王など、数人しかいないらしい。
源義経は、それに匹敵する天才だったが、政治的才能は皆無であったため、兄の頼朝に追われたのだと、司馬は指摘している。
絶えず状況が変化する戦闘の最中に、敵の脆弱な箇所を見抜き、そこに自軍の精鋭の兵を率いて、一挙に殲滅させるには、確かに大変な洞察力とリーダーシップが必要だろう。
ただ、義経が、世界の戦史上でも屈指の軍事的天才というのは、少し無理があるのではないか。司馬が、古今東西の戦争について、どれほど調べたのかは知らないが、たとえ小説とはいえ、そこまで言い切るには、きちんとした根拠や事実を示すべきだろう。
どちらにしても、一般に流布している義経のイメージを見事に裏切ってくれる小説なので、読む人によって、評価はかなり異なるに違いない。
切れ味: 可
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