城山三郎  『鼠――鈴木商店焼打ち事件』 | 読書ジャンキーの本棚

城山三郎  『鼠――鈴木商店焼打ち事件』

著者: 城山 三郎
タイトル: 鼠―鈴木商店焼打ち事件

誰しも世間で生きていくには、「あいつは○○だ」とレッテルを貼られたりすものだ。特に有名人の場合は、世間に身を晒しているから、それは宿命ともいえる。

そして、一度、貼られたレッテルは、尾ひれを帯びて世間に浸透していく。たとえ、そのイメージが事実とかけ離れていたとしても覆すのは容易ではない。


実在した貿易商社の鈴木商店と、その代表支配人、金子直吉は、唱和初期、全国各地で吹き荒れた米騒動の原因となる、米の買占めで巨利を貪った張本人として、70年以上が過ぎた現在でも、一貫して悪徳商人のイメージがつきまとっている。


鈴木商店イコール悪徳商人が、歴史的な評価にまでなっていることに、著者は、本当にそうだったのか、星霜のかなたに過ぎ去った事実を一つ一つ拾い集めながら反証していく。

著者の推論は、鈴木商店のダーティイメージは、一部の大新聞と、それに結託する旧財閥系商社が、ライバルである新興商社の鈴木商店を蹴落とすために、当時の世間に対して、巧妙に情報操作を仕掛けていくプロセスで、造られていったものではないかというものだ。


自分には手の施しようのないところで、実像とはかけ離れたイメージだけが一人歩きしていくことの怖さを思い知らされる。

特に、それが、影響力のある情報の発信者によってなされた時には、どんな虚像が膨れ上がっていくのか。いろいろ考えさせられる本だ。

切れ味: 可


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