岩崎峰子 『祇園の教訓』 | 読書ジャンキーの本棚

岩崎峰子 『祇園の教訓』

著者: 岩崎 峰子
タイトル: 祇園の教訓―昇る人、昇りきらずに終わる人

花柳界の本家、京都は祇園甲部にその人ありと知られた芸妓がいた。それが、この本の著者、岩崎峰子という女性である。


芸妓たちの養成所と住居を兼ねた置屋「岩崎」に跡取りとして、五歳の時に養女に入った彼女は、舞や地唄などの諸芸を厳しく仕込まれ、十五歳で舞妓としてお座敷デビュー。三十前で引退するまで、常にトップクラスの芸妓として、政財界や文化人などのお座敷に上がって、芸を披露していたという。

本書は、祇園という一流の社交界に芸妓として在席していた時に、彼女が見聞したさまざまなエピソードを紹介しつつ、その客商売としての鍛え抜かれた観察眼で、お座敷に遊びに来る人たちの、立居振舞や言動から、成功する人には、共通るするものがあると語っている。


しかし、私には、そんな事よりも、花柳界の裏方の人たち、特に下足番のおっちゃんのエピソードが面白かった。

下足番とは文字通り、お座敷に遊びに来た客の靴を預かる仕事なのだが、ある時、遊びに来た常連客の社長が脱いだ靴の底を見たおっちゃんは、靴底の減り方を一目見て、身体に異変をきたしていることを見抜き、その社長のいる座敷に上がる彼女を通して、早く病院に行くように伝えさせた。その社長は何も思い当たるところがなかったが、強く勧められたので、首を傾げつつ病院に検査に行ったところ、肝臓に異変が見つかったというのである。


下足番のおっちゃんこそプロフェッショナルそのものではないか。

およそ、世の中には、目立たないが、このおっちゃんのようなすごい人が、黙々と仕事をしながら生きているのだと思うと、それだけで、なんだか生きる力を与えてもらったような気分になる。

切れ味: 可