宇城憲冶 『武道の心で日常を生きる』
著者は、沖縄古伝空手の継承者であり、また、技術畑出身の経営のプロとして、企業経営者としても手腕を振るった実績をもった御仁である。
K-1に出場するヘビー級の有名選手や、フルコン空手、総合格闘技のチャンピオンクラスと自由組手で立ち合って、ほとんど子供扱いにしてしまうエピソードは、数多くある。
また、プロ、アマを問わず、いろいろなスポーツの選手たちを指導しており、武術の身体操作をスポーツに応用させて、一定のパフォーマンス向上に寄与するなど、古武術ブームの立役者の一人でもある。
その著者が、本書の中で、頻繁に使っている言葉に「身体脳」、「統一体」、「呼吸」、「型」などがある。
「身体脳」は、頭で考えるのではなく、身体で感知・感応する力とでもいおうか。
身体脳を磨けば、五感力(あるいは六感か)が鋭くなり、全てにおいて反応が素早くなるという。
眼で追う動体視力では、見てから、脳で考えて判断する分、対応は遅くなる。
武術とスポーツにおける眼のつけどころの違いというわけだ。
「統一体」は、全身の力を統合した力を有効に使える身体の動きを差しているようだ。
スポーツのように、ウエイトトレーニングで、各パーツを鍛えたところで、身体の統一がとれていなければ、生み出される力もたかかが知れている。
また、武道でいうところの「呼吸」を身につければ、歳を重ねても関係はなくなるようで、むしろ歳をとった老人ほど、呼吸を活かせるので強いのだという。
小説やドラマなどで、老いた達人が登場したりするが、現実にそういう人もいるらしい。
で、これらを身につけるためには、空手の原点である「型」をやるしかないという結論に落ち着く。
現代スポーツの常識とされているウエイトトレーニングやランニング、格闘技ならお決まりのサンドバッグ打ちなども一切不要で、ただ、ひたすら「型」を練りこむことで、身体は確実に進化するという。
著者の権威的な物言いが、やや鼻につかないでもないが、自身の身体で実証しているだけに説得力はある。
いま、ビジネスの世界では、しきりに論理思考の重要性が説かれている。
しかし、二千年以上にわたって、哲学的思考を磨いてきた西洋人に対して、付け焼き刃の「考える力」で挑んだところで、たかが知れているともいえる。
それならば、かつての日本人には備わっていたが、今ではすっかり鈍くなっている「感知・感応力・五感力」といった身体感覚を取り戻すほうが、大切なのかもしれない。
まあ、だからといって、空手をやる必要はないとは思うが。
切れ味: 可
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