池宮彰一郎 『四十七人の刺客』 | 読書ジャンキーの本棚

池宮彰一郎 『四十七人の刺客』

池宮 彰一郎
四十七人の刺客〈上

赤穂浪士たちによる吉良邸討ち入りの義挙を描いた「忠臣蔵」は、これまで無数の作家の手によって作品化されており、大筋のストーリーは、大抵の人も知っている。

その意味では、手垢がついた題材であり、後発になるほど、作品化するのが難しくなってくる。


そこで、池宮版忠臣蔵は、これまでの忠臣烈士の美談としてではなく、これを太平を享受する元禄期に起きた大謀略戦と見なし、その視点から、忠臣蔵を描き直している点に特徴がある。


吉良邸への襲撃を画する大石内蔵助率いる赤穂浪人たちと、それを阻止せんとする相手方の上杉陣営との虚々実々の駆け引きに緊迫感があり、そのテンションを保ったまま、クライマックスの討ち入りへとなだれ込んでいく。

吉良邸での戦闘シーンも、リアリティが感じられて良い。


現代風にいえば、赤穂浪士たちの討ち入り決行は、いわば、ビジネスでの事業プロジェクトの遂行に見立てることができる。

禄を失い、何の後ろ盾も持たない浪人集団が、この壮大な事業計画を如何にして成功させることができたのか?

そんな観点から読んでみれば、我々とは別世界の江戸時代の出来事である忠臣蔵も、何やら身近に感じられてくるから不思議である。

「忠臣蔵」のような使い古されたテーマも、それを料理する作者の腕次第で、装いも新たに蘇ることができるという見本のような作品であります。



切れ味: 可


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