安岡正篤  『十八史略』 | 読書ジャンキーの本棚

安岡正篤  『十八史略』

安岡 正篤
十八史略(上) 激動に生きる 強さの活学

そもそも十八史略とは、この本のまえがきを引用すれば――


古代三皇五帝から南宋滅亡までの人間ドラマが描かれている。

今、私達が日常何気なく引用している言句、格言、四字熟語などの原典が豊富に収められており、中国の歴史、王朝史を知るための基礎的入門書として、まことに恰好な史書といえる。


となる。

司馬遷の『史記』には、名実ともに及ばないが、それでも、かなり著名な史書であることは確かである。


以前、陳舜臣の『小説 十八史略』を読んだことがある。

春秋戦国時代から漢楚の興亡、そして三国志など、激動の時代がドラマチックに描かれており、また、大陸的なスケールに満ち溢れた英雄、悪人、悪女などが次々に出てきて、飽きさせない。

ただ、あまりに長すぎるのには、少々閉口した覚えがある。


そこで、本書である。

上下二巻とコンパクトなのがいい。

この通史の中で、特に、見所と思われる箇所の原文を抜粋しつつ、東洋思想に博識な著者の解説と解釈が加わって構成されている。

もともとは、著者が、講演会だかで講義したものが、元になっているので、終始、話し言葉で進んでいくので、とても読みやすい。

講演禄のせいか、時に本筋から離れた余談に流れることもしばしば。

しかし、その余談での薀蓄が、結構面白かったりするのだ。


著者の安岡正篤は、戦前から、陽明学者として知られ、戦前戦後の政界の黒幕的存在であったとも噂される人物。

ぶっちゃけ、右翼思想の親玉のようなもんである。

本書の中でも、単に古典の解釈にとどまらず、それらの歴史的出来事や人物論を、現代の社会情勢などと結びつけて語っていたりするのだが、折に触れて、共産党の支配する中国などをあしざまに罵倒する言動も多く、辟易させられたりもする。


なお、現在、テレビ番組に出まくって荒稼ぎをしている占い師の細木数子が、晩年の安岡と知遇を得て、あげく結婚したことで、世に出るきっかけをつくったことは、以前、このブログで紹介した佐野眞一の『あぶく銭師たちよ――昭和虚人伝 』に、その詳細が書かれている。


ともあれ、著者のイデオロギーによるフィルターが濃厚にかかっているとはいえ、十八史略のエッセンスを大掴みにするには、お手頃の本であろう。



切れ味: 可


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