野口悠紀雄  『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』 | 読書ジャンキーの本棚

野口悠紀雄  『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』

野口 悠紀雄
ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル


アメリカ西海岸にあるカリフォルニア州は、世紀を越えて、二つのゴールドラッシュを経験している。

まず最初は、十九世紀、この地で金が発見されたことによるものだ。

それまで、あまり人が住み着いておらず、自然にさらされるままであったこの地が、金の発見により、輝かしいフロンティアに一変した。

このフロンティアを目指した多数の野心家の中から、ほんの一握りだが、巨万の富を築いた者たちが現れたのである。


もう一つのゴールドラッシュとは、ITによってもたらされたもので、二十世紀末から現在も進行している。

これは、主にITの主流をなしているトップカンパニーの多くが、この地から誕生していること、もっと言えば、スタンフォード大学の学生達の手によって起業されているケースが多いことを指している。

例えば、ヤフー、グーグル、シスコシステムズ、サンマイクロシステムズ、ネットスケープ、ヒューレットパッカード等々である。

当然のごとく、こうしたベンチャーから株式公開を果たした起業家たちは、莫大な富と名声を手に入れた。

創業者だけでなく、ストックオプションを持っている従業員たちの間にも、かなりの報酬を得た者が結構いたりする。


その二つのゴールドラッシュの策源地が、いずれもカリフォルニア州であるというのは単なる偶然ではなく、共通した理由が存在するのではないか。

つまり、この地に、富を生み出すための何らかの社会的要因が働いているのではないか――だとすれば、その要因、あるいは環境や条件とは何なのか?

また、この地に集まった大勢の競争者の中で、成功したごく一握りの人や会社は、どうして競争に勝つことができたのか? 

それらを探ることが、本書の主題である。

更に言えば、このゴールドラッシュを反射鏡にして、今の日本に足りないものは何かについて言及している。


あくまでアメリカ的な優勝劣敗型の自由競争を説いてやまない著者の主張には、賛否両論あるだろう。

ただ、そうした著者の自論を肯定するか否かは別にしても、十九世紀のゴールドラッシュにまつわる数々のエピソードは、なかなか面白い。

また、それと、現在、この地でのITの活況を、スタンフォード大学を媒介にして結びつけていく展開もスムーズで違和感は、それほど感じられない。

アメリカ文化の一つの側面を知るうえで、読んで損はない。



切れ味: 可



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