竹田 晃 『曹操』
- 竹田 晃
- 曹操―三国志の奸雄
ご存知、「三国志」の英雄、曹操の人物評伝である。
若き日の曹操が、高名な人相見に、自分の人物評を求めたところ、「あなたは治世では優れた能吏であるが、乱世では姦雄になるだろう」と語ったエピソードは、あまりにも有名である。
著者も、曹操という人物の本質は、そこにあるという見方に立っている。
ただし、それは、曹操が、有能ではあるが、冷酷非情な悪人であるという意味ではない。
いわゆる一般に流布している「三国志」では、主役である劉備や諸葛孔明のの最大のライバルとして、その悪役ぶりばかりが印象づけられてしまっている曹操であるが、実際には、曹操こそが、この三国時代において、その人物としての力量、識見が最も優れていたようだ。
誰よりも、有能な人材を欲し、積極的に人材登用したのも曹操であるし、魏・呉・蜀の三国の中で、最も民政に気を配ったのも曹操である。
しかも、彼は卓越した指導者というだけてだはなく、後世に残るほどの名高い漢詩をいくつも遺した詩人としても側面も持っていた。
自他ともに認める英雄であるだけに、曹操には、確かに残酷かつ冷酷な面もあるが、その一方で、感受性豊かな詩をものす思索家でもあったわけで、この多面性が、曹操の人間的な魅力なのであろう。
本書では、最後の章で、詩人としての曹操にかなりページを割いて言及している。
個人的には、この章が一番興味深かった。
最後に、著者の曹操に対する見解を引用したい――
曹操のもつ多彩な表情に対しては、古来、毀誉褒貶、実にさまざまな評価が下されてきた。まことに端倪すべからざる男である。しかしながら、その政治家としての軌跡を追い、詩人として遺した作品を味わってみて、私は、さまざまな毀誉褒貶を超えて、曹操は「新時代を画した」という意味において、まさしく英雄の名に値する人物だった、と同時に、彼はまた、すこぶる感受性豊かな、奥行きの深い人間らしい人間であった、とも思うのである。
切れ味: 可
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