司馬遼太郎 『世に棲む日日』
- 司馬 遼太郎
- 世に棲む日日 (1)
『世に棲む日日』は、小説というよりも、評伝といったほうがいい作品。
『竜馬がゆく 』、『坂の上の雲』に比べて知名度の点では落ちるが、物語の進行が速く、分量的にも簡潔である。
幕末の長州藩が舞台になっている。
主人公は、前半が吉田松陰で、後半は高杉晋作である。
吉田松陰は、その生涯、そして己自身に課した行動規範をみるにつけ、これは、いわゆる武士道なるものが、江戸期の三百年をかけて純粋培養して創り上げたような人物、という印象を受けた。
武士道などといっても、相当に美化して解釈しているであろうから、実際に存在した武士など、いまのサラリーマンのメンタリティと大して変わらないだろうと思う。
しかし、時として、吉田松陰のような、倫理的な意味での武士道の結晶を生むこともあるようだ。
ただ、作品自体は、高杉晋作が登場してからの方が、俄然面白くなる。
伊藤博文の撰文にいう「動ケバ雷電ノ如く、発スレバ風雨ノ如シ」の通り、この人物の行動は、ほとんど劇画の世界である。
クライマックスは、藩ぐるみで暴走し、壊滅寸前に追い込まれた長州藩が、その反動で藩内の革命分子を弾圧している最中に、高杉晋作が、絶望的な情勢を転換させるべく、わずかな人数で決起する雪の功山寺挙兵の場面であろう。
この軍事クーデター前後の緊張感がたまらなくいいのだ。
切れ味: 良
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