尾崎秀樹・訳 『呉子』
- 尾崎 秀樹
- 呉子
ご存知、『孫子』と並び称される兵法書。
『呉子』は、『孫子』ほどには、兵家思想としては体系化されておらず、文体の格調高さやでも一歩を譲る。
が、『呉子』の魅力は、なんといっても、著者である呉起その人の強烈なキャラクターにあるといえる。
『孫子』の著者である孫武については、存在自体が曖昧模糊としており、その事蹟は、ほとんど知られていない。
これに対して、呉起の場合、軍人として、政治家としての華々しい事蹟は、史記列伝などにも詳しく記されている。
呉起は、徹底した功利主義者であり、目的のためには、あらゆるものを犠牲にしても厭わない残忍な性格の持ち主であったようである。
しかしながら、こと戦争の指揮と、政治改革を断行する先見性と行動力に関しては、誰もが認めざるをえないほどの才能をもっていたが、あまりに手腕がありすぎるゆえに敵も多かったようだ。
それが、悲劇的な最期を遂げる要因でもあった。
その起伏に富んだドラマチックな人生を知った後で、『呉子』を読めば、感慨もまたひとしおというところだろう。
ついでに、『呉子』の中で、特に気に入った文章を引用しておく。
現実主義者だった呉起の面目躍如たる言葉である。
――呉子曰く、「凡そ兵戦の場は、屍を止むるの地、死を必とすれば則ち生き、生を幸とすれば則ち死す。
其の善く将たるもの、漏船の中に坐し、焼屋の下に伏するが如く、智者をして謀るに及ばず、勇者をして怒るに及ばざりしむれば、敵を受けて可なり。
故に曰く、『兵を用いるの害は猶予最も大なり。三軍の災は狐疑より生ず』」と。
切れ味: 可
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