海音寺潮五郎 『中国英傑伝』
- 海音寺 潮五郎
- 中国英傑伝 (上)
古代中国の春秋戦国時代から漢帝国の創業初期までの事件や人物を扱った史伝もの。
これを読むと、古代中国には、とんでもないスケールの英雄や悪党たちがあふれかえっていたんだなあと、感嘆してしまう。
劉邦と天下を争った楚の項羽は、すぐにキレて数十万という数の人を殺戮するし、漢帝国の創業者、劉邦は、戦に負けて逃げる途中、敵に追いつかれそうになると、乗っていた馬車を軽くしてスピードを上げるために、同乗していた息子を放り出してしまうとんでもない親父だ。
その劉邦の夫人は、夫が寵愛した愛人に嫉妬して、ダンナの死後、その愛人の四肢を切り落とし、眼を抉り、鼻を殺いだあげくに、便器の中に閉じ込めて糞尿まみれにして復讐を果たすといった始末だ。
現在だったら極刑ものの大悪人たちのオンパレードだ。
古代の人間はなんて野蛮だったんだろう。
そんな古今の英雄、悪人たちの人物評論をさせたら、まず海音寺潮五郎の右に出るものはいないんじゃないかと思う。
特に項羽については、軍事の天才ではあるが、感情の振り幅が極端に激しいため、自己制御の能力に欠けていたことが、最大の欠点てあったとの指摘は説得力がある。
著者には、本書の他にも、日本史でおなじみの人物たちをとりあげた『武将列伝』『悪人列伝』などがあり、こちらのほうも、その人物論は、どれも短いながらも優れている。
最近は、やたらと冗長な歴史小説が主流になっているけれど、そうした中にあって、海音寺のようなコンパクトな切れ味の作品は貴重だろう。
切れ味: 良