小島一志・塚本佳子  『大山倍達正伝』 | 読書ジャンキーの本棚

小島一志・塚本佳子  『大山倍達正伝』

小島 一志, 塚本 佳子
大山倍達正伝

「牛殺し」「ゴッドハンド」「ケンカ空手」と、様々な形容詞を冠された極真空手の創始者・大山倍達。

プロレスラーとの死闘や猛牛との闘い、山籠りでの修行、硬貨曲げ等々、いまや伝説として化している数々のエピソードは本当だったのか。

本書には、世間に定着した大山倍達の虚像とは異なる等身大の姿が描かれている


二部構成になっており、第一部では、韓国人でありながら、後にその出自を隠蔽し、日本人として生きようとした大山倍達の生涯を、戦前・戦中・戦後の錯綜する社会情勢と照らし合わせながら克明に追っていく

大山は、飽くなき上昇志向を抱き、それを異国の地である日本で為し遂げるために自らの出自や経歴を隠蔽し、捏造し、虚構の伝説を創り上げた。

それは、、『空手バカ一代」』に登場する求道者の如きイメージとは全くかけ離れたものであるが、それだけに血の通った一人の人間としての親近感を抱かせる。


この親近感は、第二部になって、より濃厚となる。

二部では、実際に生前の大山と公私両面にわたって親交のあった著者が、空手家としての大山倍達の軌跡を検証していくのであるが、随所に、大山と著者の間で交わされた会話が記されている

その大山の発言が活き活きとして、いい味を出しているのだ。

平気で矛盾するような言葉を吐いたり、嘘と真実を巧みに絡めあわせた法螺話を吹いたりする。

一般の人が、大山と同様の行動や言動をすれば、信頼関係をなくし、社会的な立場を得ることも全うすることもできないに違いないが、大山がいえば、周囲は何故か納得するし、許してしまう。

いい意味でも悪い意味でも、そんな常識を超えたスケールをもっていたのが、大山倍達であったのだ。

そんなカリスマだからこそ、一代で極真空手を創始し、巨大な組織へと発展させることができたのだろうし、逆に、彼亡き後、極真会館が四分五裂になって、見る影もなくなってしまった顛末にも妙に納得できてしまう。

まさしく「空手バカ一代」であります。





切れ味: 可


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