宮城谷 昌光 『春秋名臣列伝』 『戦国名臣列伝』
- 宮城谷 昌光
- 春秋名臣列伝
古代中国の春秋戦国時代に活躍した宰相や将軍たちを列伝形式で取り上げた人物評伝。
本書には、春秋時代の名臣二十名が登場する。
しかし、どうにも宮城谷の文章は読みにくい。
人物伝のはずなのに、肝心の人物にほとんど触れることなく、自らの歴史知識をひけらかすかのような、まだるっこい説明が延々と続いたり、史実の裏を私的に推測することに、なにやら悦に入っていたりして、ちっとも、取り上げられた人物たちの象が浮かんでこないのだ。
また、漢文の素養をひけらかしたいためか、現在の小説では、あまりお目にかからない漢字(熟語か?)が頻繁に使用されているが、文章の品格を高めるどころか、かえって薄っぺらさが感じられてしまい、どうにもいただけなかった。
前回の記事で取り上げた中島敦とは雲泥の差である。
よほど中国の歴史小説が好きに人以外にはお勧めできない。
もっとも、歴史に関心のない人は、最初から手にはとらないだろうが。
- 宮城谷 昌光
- 戦国名臣列伝
『春秋名臣列伝』の続編とでもいうべきか。
中国の歴史において、あらゆる意味で最も活気があったと思われる戦国時代に生きた名臣たち十六人が取り上げられている。
『春秋~』と同時購入したため、高い出費となったが、収穫は少なかった。
感想は上記と同様。
ただ、こちらの方が、比較的馴染みの人物が多い分、『春秋~』よりは、幾分かは退屈せずには済んだ。
切れ味: 不可
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中島敦 『李陵・山月記』
- 中島 敦
- 李陵・山月記
中島敦の名作四編が収められた短編集。
どの作品も、漢文の素養を十二分に駆使した重厚な文体と、緻密な構成になっている。
「山月記」「名人伝」「弟子」「李陵」――個人的には。「李陵」が一番印象深かった。
この作品の主人公は、題名にもなっている李陵であるが、脇役で登場する司馬遷がいい。
『史記』の作者である司馬遷が、匈奴との戦争で捕虜になってしまった漢の将軍、李陵の立場を擁護する論陣をはり、時の皇帝、武帝の逆鱗をかい、宮刑(性器を切り取られること)という屈辱的な目に遭わされたことは、司馬遷自身が『史記』の中でも記しており、よく知られている。
硬骨の人であった司馬遷にとって、この宮刑は、心情的には、死を賜るよりも、はるかに酷烈なものであったろう。
その司馬遷の心の葛藤と、やり場のない怒りを、孤独な執筆作業へと駆り立てていく心情が見事に描かれている。
後世に遺るような大事を成す人は、多くの場合、逆境の中、血を吐く思いをしながら、事業を行っていた、ということの典型例であろう。
順風満帆な人生からは、大したものは生み出されない。
しかし、大事を成すには、絶えることのない迫害、屈辱、逆境が待っている。
人生とは何か、生きるとは何か――といった小難しいことを考えさせられる小説である。
切れ味: 優
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林田 慎之助 『漢詩をたのしむ』
- 林田 慎之助
- 漢詩をたのしむ
ある程度、歳を取ってくると、以前には目もくれなかったものに関心が向けられたりする。
私にとっては、漢詩もその一つにあたる。
難解かつ短い文章の中に、それを詠った人の情念が、思いっきり凝縮されている。
で、本書は、漢詩を堪能するための入門書である。
、「志」「愛」「別離」「郷愁」「逆境」等々、人生で遭遇する様々な出来事や感慨をテーマこどに括って、それに該当する中国の名詩を紹介。
同時に、それを詠った詩人の人物像や、創作の背景などを解説していくことで、より深く詩情を味わえるようになっている。
小難しいことは一切書かれていない。
詩そのものの魅力を発見し、味わい尽くすには最適の一冊だと思う。
以下、本書の中から一首、特にお気に入りの漢詩の書き下し文を引用。
唐の詩人、杜牧が、古代中国の英雄、楚の項羽が、漢の劉邦に敗れて、鳥江亭のほとりで討死するのを悼んで詠った「鳥江亭に題す」――
勝敗兵家事不期 勝敗は兵家 事期せず
包羞忍恥是男児 羞を包み恥を忍ぶは是れ男児
江東子弟多才俊 江東の子弟 才俊多し
捲土重来未可知 捲土重来 未だ知る可からず
切れ味: 良
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尾崎秀樹・訳 『呉子』
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ご存知、『孫子』と並び称される兵法書。
『呉子』は、『孫子』ほどには、兵家思想としては体系化されておらず、文体の格調高さやでも一歩を譲る。
が、『呉子』の魅力は、なんといっても、著者である呉起その人の強烈なキャラクターにあるといえる。
『孫子』の著者である孫武については、存在自体が曖昧模糊としており、その事蹟は、ほとんど知られていない。
これに対して、呉起の場合、軍人として、政治家としての華々しい事蹟は、史記列伝などにも詳しく記されている。
呉起は、徹底した功利主義者であり、目的のためには、あらゆるものを犠牲にしても厭わない残忍な性格の持ち主であったようである。
しかしながら、こと戦争の指揮と、政治改革を断行する先見性と行動力に関しては、誰もが認めざるをえないほどの才能をもっていたが、あまりに手腕がありすぎるゆえに敵も多かったようだ。
それが、悲劇的な最期を遂げる要因でもあった。
その起伏に富んだドラマチックな人生を知った後で、『呉子』を読めば、感慨もまたひとしおというところだろう。
ついでに、『呉子』の中で、特に気に入った文章を引用しておく。
現実主義者だった呉起の面目躍如たる言葉である。
――呉子曰く、「凡そ兵戦の場は、屍を止むるの地、死を必とすれば則ち生き、生を幸とすれば則ち死す。
其の善く将たるもの、漏船の中に坐し、焼屋の下に伏するが如く、智者をして謀るに及ばず、勇者をして怒るに及ばざりしむれば、敵を受けて可なり。
故に曰く、『兵を用いるの害は猶予最も大なり。三軍の災は狐疑より生ず』」と。
切れ味: 可
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塩野七生 『海の都の物語』
ヴェネツィア共和国の誕生から消滅までの一千年に及ぶ変遷史である。
いわば、現在、執筆中の『ローマ人の物語』のヴェネツィア共和国版といったところ。
シェイクスピアの「ベニスの商人」に登場するヴェネツィア人は、デフォルメされているにしても、したたかなヴェネツィア人の一面を覗かせてはいる。
そして、本書では、そんなヴェネツィア人の生態を示すエピソードがてんこ盛りになっている。
それによって、彼らのを動かす行動原理は何だったのかが分かるというものだ。
とはいえ、上下二巻の分厚い本なので、結構、読むのに骨が折れた。
ヴェネツィア共和国を取り巻く内外の環境が、彼らをして、貿易立国こそが、ヴェネツィア人の生きる道と決意させ、その中で培われた経済合理性が、ヴェネツィア人の国民性を形作ってきたことが理解できる。
そして、この本を読んだ人は、日本との類似性を考えざるをえないだろう。
国土の狭さ、資源の乏しさ、アンチヒーローを好み、集団としての組織力がある点、貿易立国であり、その経済力は、他国に対して、かなりの影響力がある点などである。
が、ヴェネツィア共和国にあって、日本に欠けているものもある。
政治と外交の技術である。
ヨーロッパと中東の中間にあるという地政学上の理由から、ヴェネツィア共和国は、常に、フランスやスペイン、そしてトルコといった大国との紛争や同盟を繰り返さざるを得ない立場に置かれた。
したがって、その中で、国家を存続させ、かつ、その生命線となる国際貿易を支障なく行うためには、どうしても、列国の勢力均衡による安定を意図した政治と外交の技術を必要とする。
それは、何百年にもわたって、ヴェネツィア人の間で磨き上げられたお家芸とでもいうべきものであった。
この点に関しては、日本などは、ヴェネツィア共和国の比ではない。
ヴェネツィア人が、世間の裏も表も知り尽くした成熟した大人なら、さしずめ、日本人は、世間知らずのお坊ちゃんといったところであろうか。
切れ味: 可
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『般若心経脳ドリル 写経と読誦―元気脳練習帳』
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そこで、遅ればせながら、ボケ予防の一端になるかと考え、「父の日」のプレゼント用に購入してみた。
「般若心経」の写経用ドリルとは、我ながら抹香臭いものを選んだな、と思ったのだが、中身を見ているうちに、何故か、自分でも写経なるものをやってみたくなってきた。
どうにも我慢できなくなり、ついに筆ペンを片手に、書き込みを始めてしまったのだが、これが結構いけるのである。
本のページに薄く綴られた経を、ただ上からなぞるだけなのだが、なんとも気持ちがいい。
いっぱしの書道家にでもなった気分というか。
清々しいのだ。
周りに人がいなければ、大きな声で読誦してみるのもいいかも。
いわく、「ギャーテェー、ギャーテェー、ハラギャーテェー、ハラソーギャーテェー、ボージソワカ、ハンニャーシンギョー」てな具合で。
声に出して読み、筆を手にして写経をすれば、たしかに老化防止になるかもしれんと、自分の身をもって体験した次第であります。
しかし、「父の日」に、筆ペンで書き込んだ本をプレゼントするわけにもいかないので、新たにもう一冊購入するハメになりました。
皆さんも親孝行に、贈ってみてはどうですか。
切れ味: 可
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近江 誠 『挑戦する英語』
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かつてベストセラーになった『声を出して読みたい日本語』の英語バージョンといった本。
歴史上の有名人などの名演説・名セリフなどの抄録を、文章と付属CDで読み、聴き、そして、実際に声に出して話してみる。それも、その人物になりきったイメージを思い描いて、声に出してスピーチしてみる。
それによって、英語のリズムが、自ずと身体に刻み込まれていくのだそうな。
まあ、気恥ずかしいこともあって、そこまで感情移入しながら、声に出して読めないであろうが、ただ、黙読しているだけでは気づかないことを感得することも多々あることだろう。
この本に抄録されているものは、どれも名文とはいえ、実用的とは言い難い英語の文章ばかりが揃っている。
だが、こうした名文を、頭で理解するのではなく、五感で味わってみるのも、時にはいいかもしれない。
切れ味: 可
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城山三郎 『官僚たちの夏』
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『官僚たちの夏』は、「ミスター通産省」の異名をとった実在の人物をモデルにした経済小説である。
主人公の風越信吾は、およそキャリア官僚らしからぬ型破りの役人。
政治家に対しても、真っ向から批判する硬骨漢である。
そのため、敵が多いが、その手腕は誰もが認めるところ。
そして、「人事」のカードを切りながら、通産省の未来図を占うことが、三度の飯よりも好きな男ときている。
作品の時代設定は、1960年代。
来るべき外資との国際競争を目前にして、日本の産業界は揺れていた。
どの業界も、国家の保護育成政策によって、まだ乳飲み子のような状態にあったからである。
そこに、世界市場を席捲している外資が、参入にしてきたら、日本の企業はどうなってしまうのか。
この問題をめぐっては、通産省内においても、早急に市場の自由化を推進しようとする勢力と、まずは、業界再編を、官民協調のもとで実現させ、体力がついた後に、自由化をすべきであるとする勢力とで、二分されていた。
風越は、後者の慎重論の領袖である。
物語では、風越が、持ち前の馬力で、官民協調をベースにした業界再編を図っていくという構想案で、省内の意見を統一させ、それを、「特定産業振興法」という法案の形で実現させようと悪戦苦闘する様をリアルに描いている。
いまや、悪と怠惰と税金の無駄遣いの巣窟のように見なされている中央官庁と役人たちであるが、かつては、こんな熱い志を持った役人たちがいて、国家を背負って走っていたのだな、ということを実感させられる作品である。
むろん、現在でも、そんな高邁な志を持った役人さんも、いらっしゃることと思いたいけれども。
切れ味: 可
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西川靖二 『韓非子――ビギナーズ・クラシックス中国の古典』
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徹底した人間性悪説に基づいた法治主義によって、君主は政治をすべきことを説いた古代中国の法家思想。
その代表者が、韓非子である。
かの『君主論』を著したフィレンツェ共和国のマキアヴェッリよりも、実に千七百年以上も前に、それに勝るとも劣らない君主論を説いた人物がいたとは。
さすがは中国四千年(いや五千年か)の歴史の厚みは違います。
で、本書は、その『韓非子』のエッセンスを抄訳した入門書です。
以前、紹介した『老子・荘子 』と同様、この角川文庫のビギナーズ・クラシックスは、どれも、なかなかいい仕上がりになっていると思う。
本書も、大変読みやすく、かつ、著者の説明がよく行き届いている。
声を出しながら読むといいでしょう。
そもそも、日本人の間では、孔孟などの儒教や、老荘思想、そして孫子などといった兵法書に比べると、『韓非子』は、あまり馴染みがないようである。
しかしながら、今後、政治やビジネスその他において、アングロサクソンはもとより、中国とも苛烈な競争が激化していく一方であることは、間違いないのだから、、中国人の基本的な思考・行動形式の中に伝統的に培われているであろう法家思想(マキアヴェリズム)を理解することは、大変重要なことなのではないかと思う。
切れ味: 良
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最近のK-1は、本当につまらん。
昨夜、放映されたのも、案の定つまらんかった。
技術も何もないデカイだけが取柄の連中が、ただブンブンと腕を振り回すだけ。
観ていてうんざりしてしまいます。
どうして、こんなにつまらなくなってしまったのでしょう?
考えてみると、やはりアンディ・フグがいなくなってしまってからのような気がします。
結局、アンディ・フグがK-1に出場していた時代、彼の浮き沈みの激しい試合内容とその結果に、単なるエンタティンメントを超えた人生劇場とでもいうべきものが垣間見えたとでも申しましょうか。
アンディの試合は、勝っても負けてもドラマチックであり、危なっかしいカカト落としにも魅了されたものであります。
そんなことを、このDVDを観ながら、感じたりしたのでありました。
切れ味: 可