読書ジャンキーの本棚 -3ページ目

半藤 一利,、中條 高徳, 他、編著  『勝者の決断』

半藤 一利, 童門 冬二, 成 君憶, 後 正武, 松岡 正剛, 中條 高徳, 矢澤 元
勝者の決断

『勝者の決断』に所収されている論文は、どれも、ダイヤモンド社から発行している『ハーバード・ビジネス・レビュー』の各号に掲載されたもので、主に、歴史上の出来事や人物を素材にして、戦略思考とリーダーシップ論を述べたものがピックアップされている


したがって、異なる筆者が、章別に、分担する形で、古今東西にわたる広範な歴史的な出来事(主に戦史)や古典を俎上にして、それらに通底する原理原則なるものを抽出、これを現在のリーダーにも通用するものとして論じている。

ということで、まあ、陳腐極まる構成と内容と言ってしまえなくもない。


また、こうした編著にありがちであるが、紙幅の制約もあって、どれも中途半端で終わってしまっている。

ちょこちょこと前菜を食わされた後、肝心なメインディッシュのおあずけをくらった感がある。


かつ、筆者によって、内容の出来にかなりの落差があるのも、よくない。

特に誰とは言わないが、独自の史観も何もなく、ただ、その時に話題になりそうな題材や人物を、節操もなく取り上げ、安直な歴史本を量産している書き手が跋扈している現状は、なんとも嘆かわしい。

これは、読み手の読解力の低下とも密接に関連しているだけに、結構、問題の根は深いのかもしれない。

いずれにしても、このような取るに足りない書き手を、『ハーバード・ビジネス・レビュー』に載せるのが、そもそも間違いなのである。

他に、もっと識見を持った書き手がいるだろうし、発掘するべきであろう。

編集部は、もっと誠実に仕事に取り組め!


切れ味: 不可


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藤井 正嗣, リチャード・シーハン 『英語で学ぶMBAベーシックス』

藤井 正嗣, リチャード・シーハン
英語で学ぶMBAベーシックス

『英語で学ぶMBAベーシックス』は、NHK教育テレビで放送されたものを基にして構成されている。

内容からいえば、大学生から社会人一、二年目あたりの人向けといったところか。

経営のごく基本的な知識と、比較的、実用性がありそうな英語を、一石二鳥で学べる。


実際にビジネスの現場で、ある問題が発生したという状況設定に基づいた英語による会話のやりとり、及び、問題解決のための経営理論と、その活用法についての日英の二ヶ国語による解説――これが、本書の基本的な構成になっている


扱っている素材は、MBAというほど大袈裟なものではなく、経営の基本中の基本であるマーケティング、財務会計、経営戦略、人材マネジメント等々のさわりにすぎない。

しかしながら、シンプルにまとまっているだけに、挫折せずに学習できるかもしれない。

特に、財務会計などは、日本語よりも、むしろ英文で書かれたものを読んだ方が、分かりやすいともいえる。


個人的な感想を言わせてもらえば、語学の教材に関しては、その質と値段からいえば、NHKから出版されているものが、一番ハズレがないのではないだろうか。


切れ味: 可


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村上春樹  『ノルウェイの森』

村上 春樹
ノルウェイの森〈上〉

『ノルウェイの森』は、いわずと知れた村上春樹のベストセラー小説。

多くの人が読んでいることでしょう。

未読の方は、アマゾンなどに、ブックレビューは、腐るほどあるでしょうから、そちらをご覧ください。


さて、ご存知のように、この作品には、直子と緑という二人のヒロインが登場します(厳密にいえば、もう一人、独特の存在感を放つ年上の女性がいるので三人だともいえるのですが)。


この二人のヒロインについて、以前、このブログで取り上げた福田和也の『悪の恋愛術 』という本の中で、興味深い事柄が書いてあった。

福田が、大学の講義で、学生たちに、直子と緑のどちらが好みであるか、というアンケートを施したところ、男女できれいに好みが分かれてしまったというのだ。

男子学生は、大抵が緑であり、女子学生は直子を支持するというものだそう。

で、福田は、この事につき、なぜ、若い男性が、緑のような女の子を好み、逆に女性は、直子に共感するのかについて、持論を述べているが、面倒なので、それは割愛。

興味のある方は、本を読んでみてください。


で、私も、若い男子学生と同様に、どちらかといえば陰性の直子よりは、陽性の緑に魅かれるのですが、これって、歳を喰っている割に、精神的には成熟していないということでしょうか。

ちょっと複雑な気分です。

そうはいっても、緑の方に魅力を感じるのだから仕方がない。


ところで、皆さんは、直子と緑、どちらの女性に魅かれますか?


切れ味: 良


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菅野 覚明   『武士道の逆襲』

菅野 覚明
武士道の逆襲

『武士道の逆襲』とは、なかなか刺激的なタイトルである。

かといって、別に国権思想を煽るような本ではない。

本書「あとがき」の言葉を引用すれば、この本の目的は、下記のようになる。


今日広く流布している武士道イメージは、本書でいうところの明治武士道によって形づくられている。当事者である武士たちの精神と、明治武士道の間の深い断絶を明らかにすること。


明治武士道とは、つまり、新渡戸稲造の著した『武士道』のイメージである。

しかしながら、これは、あくまで富国強兵を第一義としていた明治期が生んだ近代思想であり、本来の武士道とは、全く異なるものであるという。

では、本来の武士道とは、いかなるものなのか?

それを、さまざまな文献を基に明らかにしていくところに、本書の醍醐味がある。

そして、再度、本書「あとがき」の言葉を引用して、「武士道」なるものを凝縮して言えば、


武士道の基本骨格は、キーワードで示すなら、「私」「戦闘者」そして「共同体」である。これらは、それぞれ「自立」「実力」「心情的一体」という三つの価値に対応している。


となる。


新書でありながら、内容はかなり充実しており、この方面に関心のある人にとっては、理解を深めるのに最適な本といえる。


切れ味: 良


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伊藤 昇, 飛竜会
気分爽快!身体革命―だれもが身体のプロフェッショナルになれる!

現代人の98パーセントの人は背骨が歪んでいるらしい。

ほぼ全員が不健康体なわけだ。

この歪みを取り除き、健康な身体を回復するのに役立つのが、伊藤昇の考案した「胴体体操」だ。

といっても、特別に難しいものではないらしい。


『身体革命』によれば、胴体体操の基本は、胴体を「反る」「曲げる」、「伸ばす」「縮める」、「捻る」だけだ。これを毎日続ければ、ゆがみが解消し、健康体になり、かつ胴体がよく動くようになって、運動神経も衰えなくなるといった具合で、まことにいいことずくめだ。


あまりに簡単すぎて、本当に効果があるのかな、と思わないでもないが、この本の著者、伊藤昇という人が只者ではなかったらしい(過去形になっているのは、すでに物故しているため)。

若い頃に少林寺憲法に熱中したのはいいが、ハードトレーニングのしすぎで、すっかり身体を壊してしまい、完治するのに数年を要したという。

その時に、身体調整の重要性に気づき、以後、自らの経験知をもとに、運動をするにも、また健康面からも、手足より、胴体そのものを動かしたほうが効果がある「胴体体操」を提唱し、プロ、アマのアスリートを中心に普及させていったそうだ。

伊藤自身も、身体を壊す前よりも、歳を重ねるごとに、動きが格段によくなり、武道の世界では、その人ありと知られた存在だったらしい。


切れ味: 可


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江戸川乱歩賞受賞作のハードボイルドミステリー。

苦い過去を持った主人公の一人称ハードボイルド小説は、それこそ、手垢がつくほどに書き尽くされている。

しかも、このジャンルの読み手は、熱狂的ともいえる愛好者が多い。

だから、よほど、物語に意外性があるか、文体が新鮮でなければ、支持されるのは難しい。

特に、新人作家にとっては、相当に高い壁だ。

乱歩賞受賞作ではあるものの、この作品も、そのハードルは越えられなかったというのが実感だ。

原寮は例外中の例外なのだろう。


切れ味: 不可


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抄訳であるが、書き下し文の字が大きく、行間も程よくとれていて、大変読みやすい。

思わず声を出して朗読をしたくなる。

入門書としては、よく出来ていると思う。


老子・荘子ともに、浮世離れした思想で、まあ、一言でいえば、自然に還れ、といったところでしょうか。

個人的な好みとしては、荘子の斉物論編にある「胡蝶の夢」が一番いいですね。

司馬遼太郎の小説にも、同名の作品がありましたっけ。

昭和の大横綱であった双葉山が七十連勝を阻まれ、連敗を喫した時、後援者に打った電報の文章は、「ワレイマダモツケイタリエズ」だったが、そのエピソードで有名になった荘子・達生編の「木鶏」も捨てがたいのだが。

とにかく、のんびりとした休日を読書に遊びたい方にはお勧めの一冊であります。


切れ味: 可


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菅野 寛 『 経営者になる 経営者を育てる』

菅野 寛
経営者になる 経営者を育てる

――本書は、「いかにして優秀な経営者になるか」あるいは「どのようにして優秀な経営者を育てるか」をテーマにした本である。


という、『経営者になる 経営者を育てる』のまえがきにあるように、リーダーシップ論なのであるが、従来のものとは、多少とも一線を画したユニークな構成になっている。


プロフェッショナルという言葉に値する経営者が必要とする能力(スキル)には、科学系スキルとアート系スキルの二つがあると定義する。

科学系スキルとは、マネジメントの知識力と、ロジカルシンキングのことを指している。言語や思考を司る左脳をフル活用したスキルである。

これらに関するビジネス書は、巷にあふれかえっている。


一方、アート系スキルとは、感性や閃きを司る右脳を活用したスキルで、次の五つがある。

①強烈な意志

②勇気

③インサイト

④しつこさ

⑤ソフトな統率力

本書は、これらアート系スキルの詳細な説明と、実際にどうやって、これらのスキルを獲得していけばよいのかを、有名な経営者たちのインタビューなども交えながら、展開していく。

別に経営者ではなくても、これらのスキルセットは、あるにこしたことはないので、リーダーシップに興味と関心のある方にはお勧めである。


ただ、ここで書かれているようなことを実践したとして、果たして、意欲はあっても、先天的な能力に欠けている人の場合、どれほど会得できるかは、なんとも言い難い。




切れ味: 可


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クラウゼヴィッツの戦略思考―『戦争論』に学ぶリーダーシップと決断の本質

『クラウゼヴィッツの戦略思考』は、経営コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループが、難解な戦争哲学書として知られる『戦争論』のエッセンスを紹介した本である。


序文に曰く――本書は原文を四分の一に要約したうえ、わかりやすく、論理的な順序に再構成して、読者の方々にクラウゼヴィッツの知見を容易にご理解いただけるようにしたものである。


つまり、現在のビジネス環境にも通用する戦略論、組織論、リーダーシップ論の古典的存在として、『戦争論』の価値をを捉え直し、特に著者であるクラウゼヴィッツの戦争全般を考える上での思考方式に着目している。


再び序文に戻って――日本の読者のみなさんに『戦争論』を読んでいただきたいのは、次の三つの理由からである。

まず、海外から見ると、クラウゼヴィッツが『戦争論』を執筆した時代と、現代の日本のビジネス環境とは、既存の競争秩序が大きく変わる変革期という点で大きな共通点がある。

クラウゼヴィッツによれば、激動、変革の時代には、リーダーは短絡的に早期解決策を探るのではなく、「戦争か平和か」「攻撃か防御か」など、相反する二つの視点を持って弁証法的に熟考する必要がある。論理的に正反対な関係にある二つの視点から考えていくことは、現代でも大変有益である。

最後に、クラウゼヴィッツの視点と、現代日本人との視点との共通性も見逃せない。『戦争論』は敗者から見た自己変革の書である。


現在のビジネスシーンに氾濫している言葉に「戦略思考」なるものがある。

大抵の場合、何となく知的な響きがあるからという理由くらいで使っているのに過ぎないのであろうが、「戦略思考」の本来的な意味や、有効に活用するための方法論を知りたいと欲するのならば、その言葉の元祖、クラウゼヴィッツに学ぶに如かず、というわけである。


個人的な感想としては、戦争につきものの摩擦の概念と、それによって生じる不確実性と偶然性の要素を考慮しない戦略策定は致命的であるというのが、興味深かった。

たしかに計画通りにいくことなど、滅多にないのだから。

こうした不確実性や偶然によって、戦争における作戦計画や行動が大きく左右されてしまうことへの耐性を持った者だけが、真のリーダーシップを発揮できるのだ、という指摘も最もなことであると思う。


最後にまた序文から――クラウゼヴィッツの『戦争論』は、激動の時代の優秀なリーダーに求められる「思考の力」を深く洞察した書物である。クラウゼヴィッツ的な考え方は将来に対する可能性の幅を大きく広げてくれるのである。


というわけで、なかなかの好著ではあるのだが、読み通すには、結構、骨が折れる。



切れ味: 良


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堺屋太一  『歴史からの発想』

堺屋 太一
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歴史に学ぶ組織論とでもいった類の本。

歴史を題材にした場合、どうしても傑出した天才的指導者にばかり目が向きがちである。

しかしながら、こうした天才は滅多に現われるものではない(だから歴史上に名前を残しているのだが)。

となれば、常人には参考にならない天才に焦点をあてるよりも、組織そのものの変遷に目を向けた方がいい。

とはいっても、組織史の学問は、もっとも立ち遅れている分野である、と著者はいう。

それが、本書執筆の動機の一つにもなっているようだ。


本書のラストで、著者は、「勝てる組織」を創るには、権威と権限の分離という分業体制を構築すること――組織のなかに権威を持つ人間と能力を発揮する人間(つまり権限)を分離しようという考え――が不可欠であると指摘している。

これは面白い指摘であると思うのだが、ほんの数ページしか言及していないため、あまりにも物足りなさ過ぎる。もう少し紙幅を割いて、この分担論について掘り下げてくれれば良かったのに。


組織におけるナンバーツーの立場にある女房役の役割に関する記述もなかなか面白い。

こちらには、十分な紙幅が割かれている。

著者によれば、女房役は、あくまでナンバーツーに徹しなければならず、何があっても、トップに取って代わることはなく、それを自他ともに認める人でなければ、女房役は務まらないという。


ことのついでに言えば、女房役には、トップが暴走した場合、そのブレーキ役になることが求められると思うのだが、ライブドア事件では、女房役が、トップと一緒になってアクセルを踏み続けてしまったようである。



切れ味: 可


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